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実際の症例提示 (3)重症び漫性型
重症瀰漫性型の症例を示します。
第5の例
T氏は私共の対象の最も重い例です。被災時年齢は39才、昏睡時間は20時間でしたが、その後意識障害は3ヶ月に及びました。その後睡眠覚醒のリズムが戻って来ると同時に長期にわたる無言無動の失外套症候群が続き、その後に著しい固縮に譫妄がみられました。後遺症は重度の痴呆状態で、発語は歌うような意味の無い音声を繰り返す音誦症で、言語的意志の疎通性は得られません。しかし情動は変わり易く僅かに感情的な疎通性が残っています。言語的疎通性はありませんでしたが、家族の面会に反応し、孫のいたずらに不機嫌になるなどの知的活動の片鱗が伺いしれます。
この例の前景にある症状は著しい錐体外路症状です。舌口唇のヂスキネジア、両手を握り拳を振り挙げて宙を叩くような常同運動と歩行は右廻りの回旋歩行が見られます。
直線歩行は出来ないのでこのように後方から押してやる必要があります。
起立位から座らせたり、臥床させる事は不可能で丸太のように倒れます。いわば身体の躯幹運動が出来ず、腰や膝を曲げたり、捻転したりは全く不可能です。手指の巧緻性もなく食事、排便排尿、入浴、洗面等の日常生活動作は全て不可能です。しかし脱力や麻痺はありません。
視覚や音、言葉に良く反応します。
文字は読めませんが書字はやっと握らせて鉛筆で下の図ようななぐり書きや、模写では手本の字を丸で囲います。
書字図

この症例は20数年前に運動麻痺がない事から生命保険会社や国民保険の障害者に該当しないと当時されました。驚くべきことです。この様に大脳皮質障害者に対する社会的な過小評価が目立ちます。
大脳の障害に対する正当な評価方法を確立すべきです。この事は今日的な問題でもあります。この様な障害を理解できる人が社会的な評価に法的に参加する体制ができていなかったからです。この症例のCTです。

両側淡蒼球壊死の所見と前頭葉や頭頂・後頭葉皮質下の低吸収域が見られますが側脳室の拡大は目立ちません。
第6の例
F氏も同様瀰漫性重症型です。被災時年齢は48才で、意識障害は1ヶ月間で第6例同様に著しい無言無動の失外套症候群を経過しました。後遺症は重度の痴呆が見られ、パーキンソン症候群と強い失行失認が見られます。
表情は呆然として、感情は平坦化し表情筋の動きが少なく、右手を挙上するように命じると両手を挙げて答えます。
姿勢は強い前屈位で、寡動、固縮が見られます。
描画では家の自発画に模写は視空間構成の障害は見られます。

此の例のMRIです。水平断 前額断

側脳室の強い拡大と両側淡蒼球壊死が見られます。前頭葉、頭頂葉、特に後頭・側頭葉皮質下に強い広範なT2WIで高信号域を認めます。
第7の例
S氏は重症の視覚型とも言える症例です。受傷当時39才、意識障害は3-4週間、その後完全な皮質盲が数カ月持続しました。遷延初期は言語了解障害、記憶障害に見当識障害に注視麻痺が見られ、皮質盲から回復しても物体、相貌、色、文字の認知は障害され、はさみを使ったり、櫛で髪を梳いたりする日常物品の道具の操作ができず、着脱衣も介助を要します。トイレも誘導する必要がありました。
この例は初期に視覚失調と言う症状が見られ、見えている物を旨くつかめず、その脇をしきりとまさぐります。目の前に出された鉛筆の棒などを注視出来てないのです。見ている所に視線が合わず、対象物体の空間的な位置が分からなくなっています。閉眼で自分の鼻は掴めますので、通常の失調症はないのです。
この例の最も著しい障害は道具操作や触覚、聴覚認知に比して視覚認知にあります。
様式別認知能力 正 答 率
視覚命名 1%
触覚命名 45%
聴覚命名 59-74%
道具使用 75%
この例の自発画です。形を言えば思い出せます。

左にその丸、三角、四角までは描いてくれました。
しかしこの右の絵の模写は見ても分からず、模写は全く出来ません。
ついでこの視覚認知による模写と触覚認知による図形描画を比べてみました。
手本 自発画 視覚認知触覚認知

視覚認知では全て四角で応答しますが、触覚認知は保たれて居る事が解ります。この著しい視覚認知障害が現在も続いています。
この例の水平断 MRIです。

強い後頭葉、側頭葉、一部頭頂葉にもT2WIでの高信号域が見られます。
しかし本例も日常生活ではこの強い後頭葉性の視覚認知障害にも関わらず、 自転車に乗って林の中を自由に走る回れるのです。
これらの症例は強い大脳障害にも関わらず「至適な検査」を行わない限り、日常生活動作観察だけでは全く見えてこないのです。
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