独立行政法人 労働者福祉機構
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第一部

第一部 要約
I はじめに
 頻度
 物理化学的性質
 中毒発生の機序
 病態生理
II 臨床症状
 急性期の臨床症状(初期、主徴期)
  慢性期の臨床症状(主徴期から後期)
  意識障害の持続時間と後遺症の関係
 臨床症状による経過の違い
 後期(Bumke u. Krapf)の臨床症状
  遷延初期 通過症候群:失見当識健忘症候群
  遷延後期 後遺症の頻度

第二部

第二部 要約
III 遷延後期(後遺症):大脳皮質・神経心理症状
 先行失認の臨床類型:象徴型と視覚型
 実際の症例提示
 (1)象徴型
 (2)視覚型
 (3)重症び漫性型

第三部

第三部 要約
IV 経過
 初期から10年以後20年間まで
 長期経過10から30年後まで
V まとめ

実際の症例提示 (2)視覚型の症例

 次は視覚型の症例を提示します。

第3例

 S氏は被災時年齢は36才、意識障害は13日間見られました。遷延初期は強い自発性低下と錐体外路症状がみられました。4ヶ月以後の後遺症は視空間失認と、失書、寡動です。
人物画には視空間の構成障害が目立ちます。

人形図

図形トレース

このような図形のトレースが困難です。

 視覚的な模写と触覚認知による図形描画です。

手本 視覚認知 触覚認知
模 写 手で触れて描く

 象徴型のI氏とは逆に視覚による模写が困難で、触覚認知による描画が良いことが解ります。
この例は着衣やネクタイ結びが困難でした。

第4の例

 K氏は被災時年齢は35才で意識障害は14日間で、その後2週間の皮質盲を経過して軽快しました。
1年後にも しかし黄斑部のみしか見えない著しい視野狭窄に視覚失認がみられました。
この例の特徴はこの強い視野障害にも関わらず野球ができることです。
この例の動的視野と静的視野を示します。

視野図

 シャドウを付けた所は運動視が多少可能な所で20度位です。
 この著しい視野狭窄は後頭葉へ行く視放線が後頭葉皮質下傷害でほぼ完全に絶たれているためと思われます。
この例の様な視野の著しい障害があれば丁度この絵ように体育祭で、メガホンを逆さにして視野を狭くして、ボールを蹴って行くゲームに似ています。

ボール蹴りの図

 私もこのゲームは経験がありますが、蹴ったボールを探す事は至難な技でした。ところが この例は見えない視野から投げたボールを受けとめ、後方から出した指標を掴む事が出来ます。
 本人にボールが見えるのかと尋ねると、「見えないが、ただ何となく分かる」と心もとない返事です。
 この症例のMRIの矢状断です。

 手足の運動野は完全に無傷です。縁上回、上頭頂葉は部分的に残っています。

大脳シェーマ図

 おそらくこの例はこのシェーマで示すように網膜、視神経、外側膝状体に来た視覚情報は視放線、後頭葉では絶たれて視覚認知が障害されていても、上丘、視床やまたは直接網膜から無傷で残った頭頂葉を介して、ボールの位置情報は手の皮質運動野に及んでいると解したほうが理解しやすい症例と思われます。この例はボールは目には見えていなくても、「手が見ている」と言うべきでしょう。このように大脳皮質はその皮質下諸核と密接に結びついています。
 一般に大脳皮質症状は此の皮質下機構を使って巧みにその障害を代償して、日常生活に適応しているかのように思われます。
 しかし物の認知と言った大脳の本来の知的能力の回復はなかなか得られません。この物の認知は知的障害に入り、詳細な神経学的、また神経心理学的検査を行わない限り、その障害の全容を明らかにする事は出来ないのです。このことはしっかり銘記すべき事です。


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