独立行政法人 労働者福祉機構
戻る

第一部

第一部 要約
I はじめに
 頻度
 物理化学的性質
 中毒発生の機序
 病態生理
II 臨床症状
 急性期の臨床症状(初期、主徴期)
  慢性期の臨床症状(主徴期から後期)
  意識障害の持続時間と後遺症の関係
 臨床症状による経過の違い
 後期(Bumke u. Krapf)の臨床症状
  遷延初期 通過症候群:失見当識健忘症候群
  遷延後期 後遺症の頻度

第二部

第二部 要約
III 遷延後期(後遺症):大脳皮質・神経心理症状
 先行失認の臨床類型:象徴型と視覚型
 実際の症例提示
 (1)象徴型
 (2)視覚型
 (3)重症び漫性型

第三部

第三部 要約
IV 経過
 初期から10年以後20年間まで
 長期経過10から30年後まで
V まとめ

病態生理

 さて病理ですが、組織の傷害は代謝活動の大きい大脳と心臓や肺が最も出現し易いのです。急性期には心臓や肺が傷害をうけ、心肺機能の低下を招いて、意識障害を起こす主要な原因臓器となります。
 しかし大脳では特に白質は瀰漫性に少し遅れて傷害され、その障害は一部は不可逆的となり、永続的な後遺症となります。つまりCO中毒後遺症といえば、大脳の神経心理学的な後遺症がその主体となります。また両側の淡蒼球壊死はCO中毒に特有な病理所見とされ、COのパキンソニズムの原因とされて来ましたが、この淡蒼球壊死は全例にはなくむしろ急性期の心肺機能の低下と関係して、後遺症の程度とは関係がないと言われます。いわゆるCOパーキンソニズムの原因とも言えないのです。しかしこのようなパ−キンソニズム残す症例を含めて後遺症を残すような症例には白質障害が全例に見られます。

 72歳の男性 で、1日の意識障害が回復後3日目に再び意識障害を来たし回復しないまま4年後に死亡した例があります。この様に遅れて出る後の神経障害は重篤なのです。
 この様な経過はCO中毒に特有で、「間歇型」と言われます。
 解剖して調べると典型的な両側の淡蒼球壊死が見れます。側頭葉等の白質障害も見られます。

解剖脳半球切片

髄鞘染色をしますと、CO中毒特有のCO白質傷害が明らかになります。

側頭葉髄鞘染色

 病態生理CO中毒の病態生理についてここで一言触れておきます。
 前述の解剖例の様な間歇型の経過をとる症例の臨床病理学的な観察は、CO中毒の臨床症状を理解する上で重要です。

 他の例49歳女性でも、練炭火鉢をつけて寝ていて、数日間の意識障害がみられ、その後回復して2週後から再び次第に大脳皮質症状が出現してくる間歇型の経過が見られました。

経過図

 この例は人形の描写で、胴体が無く、頭から直接手足を描きます。患者さんの身体的なイメージが崩壊している事を示します。

 SibeliusはCO中毒は間歇型と間歇期のない非間歇型とがあることを示しました。しかしこの両者に病因論的に症候学的な差異がなく。間歇期と言えども完全な無症状でもなく、非間歇型も不完全な間歇型のことが可成り見られます。また定型的な間歇型になるほど一般に重篤になります。
 久留米大学北原尊義先生の報告された練炭火鉢による家族3人が同時に中毒した例があります。

経過図 間歇型3例

 急性期は75才のおばあさんが最も重篤で昏睡時間も長く、しっかり治療されました。14才の娘が最も軽症で意識回復と同時にその後何等続発症もなく回復しました。ところが48才母親は意識障害が祖母より短く軽かったにも関わらず、その後出現した続発症の間歇型は3人の中で最も重篤で数カ月の入院を余儀なくされました。祖母も間歇型で症状が一時出ましたが、入院する迄には至りませんでした。
 間歇型での発症は30才以後の人により多く見られます。
 この間歇型の重篤さと初期の昏睡とはこの例の様に関係がありません。結局CO中毒は間歇型、不完全間歇型、非間歇型と3つ経過をとります。

図 間歇型機序 CO 中毒病態機序発生機序の仮説(志田)

A:CO-Hbによる無酸素症anoxiaの作用
B:COによりひき起された進行性脳内過程
太線:臨床的表現
細線:臨床症状発現の闘値

 いずれも急性期の昏睡の意識障害過程Aと遅れて発現する大脳白質過程Bが時間的に別々の経過をとるためです。
それはまた非間歇型の症例でもその目で見てみますと、臨床的には同様な二つのAB過程が区別されて観察されます。
 このAB両過程は

A過程は無酸素症(Anoxia)による意識障害過程です。
B過程は病理学的に遅れて発生する白質障害による精神神経症状です。

 両者は病因論的ににはそれぞれ別の病態が推定されるのです。尚このB過程は最近の脳CTやMRI等によって、臨床の場面でもこの白質障害が中毒後遅れて、次第に進展する様子を画像の経過としで、実際に見ることが出来ます。


copyright 2004-2005 Japan Labour Health and Welfare Organization. All Rights Reserved.